女子大生の読書日記

ゆるっと、本の話を気まぐれに

私も、部活やめたんだよ

桐島、部活やめるってよ』※ネタバレなし

 「私も、部活やめたんだよ」なんて言っといて、「桐島、部活やめるってよということは、桐島が部活をやめるかどうかはまだ分からないということになる。だから、私「も」というのは厳密に言うと、「は」と表記しないといけない。『桐島、部活やめるってよこのタイトルはあまりにも有名である。普段、読書をしない私の家族も知っていた。先日、朝井リョウさんのエッセイ『時をかけるゆとり』『風と共にゆとりぬ』にどハマりしてしまった私は、毎日のように家族の前で朝井リョウ朝井リョウと連呼していたわけだ。朝井さんのエッセイの面白さを一言で表すとしたら、全国民が手を取り合って絶賛できる面白さである。そして、朝井エッセイロスに陥った私は、高橋みなみさんと朝井さんの「ヨブンのこと」を聞き始めた。これがまた面白い。完全にハマってしまった。勝手に自分の中でチームYになったつもりでいる。それだけ、朝井リョウに対する熱が高まっている今日この頃である。

 

時をかけるゆとり (文春文庫)

時をかけるゆとり (文春文庫)

 

 

 

風と共にゆとりぬ (文春文庫)

風と共にゆとりぬ (文春文庫)

 

 ↑全国民が手を取り合って絶賛できる朝井さんのエッセイ

 

 黒い青春

 私は半年前に高校を卒業した。まだ半年なのだが、随分と時が経ってしまったように感じることの方が多い。道端で制服を着た高校生を横目で見ると、自分が半年前まで高校生だったのかと信じられない気持ちになる。私はとにかく早く卒業したかった。担任とは、根本的に人間として合わないと思っていたし(後に出てくる顧問と同一人物である)、先に推薦入試で進路が決まった私は、受験シーズンに教室で過ごす時間がとてつもなく居心地が悪かった。だけど唯一、高校生活を生き抜いてよかったと自信を持って言えることがある。この物語の中に、登場人物が上辺だけではない友達が欲しいと願うシーンがあった。私は生涯付き合えると自信を持って言うことのできる友人に一人出会うことができた。それが、私にとっては救いであったし、その高校に進学し、卒業できてよかったと思える出来事であった。この物語の中には、外見ばかりを気にする者、熱心に打ち込むものはあるが、教室では疎外感を抱いたりする者、色んな高校生の視点を見ることができる。誰を上に見て、下に見るか。そんな経験は、誰もがしたことがあるのではないか。私は当時、生徒を以下四つに分類していた。

①常識のないキャピキャピ ②常識のあるキャピキャピ ③良くも悪くも、普通 ④基本的に喋らない

改めて、文章にして見ると凄く嫌なやつだなと我ながら思う。そもそも常識があるないについても完全なる主観に基づいている。勿論、口に出してあなたは、常識のないキャピキャピね、なんて言うことはまずない。ただ心の中で密かに分類していたのである。学校というものは、本人たちが思っている以上におかしな場所なのかもしれない。どれだけ私自身が自分を客観視できているかどうかは微妙であるが、私は③の人間であった。②、④とは基本的に仲良くできる。しかし、①の人とは、一対一でコミュニケーションをとる場合は辛うじて、何とかなると言った感じで、複数人となるとそれは一気に崩れ落ちるのである。このような、心にざらりとした後味を読んで感じるのがまさに『桐島、部活やめるってよ』である。

 正解も不正解も存在しないということを前提にした上で、私は部活を辞めて正解だったかと改めて考えてみると、辞めてよかったと思っている。嫌な思いを沢山してもなお、あの部活から逃げ出せたことはよかったかも知れない。(やめた原因はいくつかあるのだが、大部分は人間関係にあった)部活に限らず、苦しいことがあったら、逃げ出してしまうのも一つの選択である。周りから、どう言われよう思われようと、逃げてしまえば、解決することも沢山あるのだから。実際、やめる時は本当に苦労したのである。大っ嫌いな顧問が先輩たちに「絶対に連れ戻せ」というような指示を出し、顧問の言うことは絶対!と信じていた先輩は本当にしつこかった。それから私は部活をやめてから、吹奏楽が呪いのようなものになっていた。しかし、どういうわけか大学の吹奏楽団に入団してしまった。あれほど、嫌な記憶だってあるはずなのに。私は、他の誰かを傍観しているような気持ちになった。あなた吹奏楽、またやるのかい?思わず自分に対して笑いが込み上げてきた。絶対にやらないと思っていたのに。体の奥底には、音楽が好きな気持ちや大勢で演奏することをまた体感したいと思い続けていたのであろう。その先のその場所で上手くいくかどうかなんて分からないけれど、こんな風に気楽でいられるのは、高校時代に真っ黒な思いをしたおかげかもしれない。

 もし、目の前で辛い思いをしている中高生が居たとして私が伝えられることは、辛い時には逃げることも大切で、いつか時間が解決してくれるから大丈夫。誰にも打ち明けることの出来ない思いは、本が受け止めてくれる。桐島、部活やめるってよ』にはそんなリアルな高校生たちがいるのだから。

 

ということで「私、高校で部活やめたけど、大学でまた吹奏楽やるってよ」しばらく、私の中で「〇〇ってよ」が流行りそうな予感がする。

 

桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)

桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)